本書は4部構成となっている。
第1部「持続可能な都市建築をめざして」では、伝統の知恵と先端技術が拓く建築の未来像を、建築ストック活用と社会変化がもたらすイノベーションの観点から論じている。建築単体の技術開発だけではなく、秩序ある都市空間の実現を視座に置くことの重要性を指摘している。
第2部「建築ストックの現状と課題」では、しなやかに変化する建築の国内外の実例を示すとともに、著者が大学での研究活動として実施してきた集合住宅の居住履歴の調査研究や、公共施設再編の取り組みを紹介している。それらの実践的活動の背景にあるオープンビルディングの理論とその国際的な動向についても、著者のCIB W104小委員会主査としての経験をもとに記述している。
第3部「世界の伝統的建築構法」では、著者が現地にて撮影した写真をもとに、ブータンの城塞建築と伝統住居、インド・ラジャスタン州の城郭都市、中国安徽省の古民家群、東欧カルパチア山脈周辺の木造教会などが、世紀を超えて存在し続ける姿を論じている。立地する土地の自然環境に適合し、また社会の変化にも対応して増改築を繰り返す伝統建築に、現代建築が学ぶ知恵が数多く存在することを示している。
第4部「建築のひろがり」では、未来への展望として、筆者が大学で取り組んできたグローバル人材育成を自身の留学経験も交えて述べている。その上で、今後、重要性を増す近代建築の保存活用について、著者が保存活動に参加した東京・大阪中央郵便局の保存、活用の問題を題材として、吉田鉄郎が目指したモダニズムの理念をもとに考察している。
表紙カバーは、アムステルダム旧市街地の運河沿いの住宅の写真である。約4世紀にわたり、歴史的な街並みを継承しながら、建物はその時々のニーズに合わせて改修され、更新されてきた。しなやかに、時にはしたたかに、社会の変化に対応しながら持続的に存在してきた建築の姿は、COVID-19で世界が大きく変わりつつある今、これからの都市と建築が進むべき方向性を示すものであろう。
本書は著者が四半世紀に渡って撮影した国内外の建築、都市の写真を用いて、「しなやかに時とともに変化する建築」の実例を紹介し、現代建築への応用手法を提示している。洋服のように体形が少し変わると着づらくなるのではなく、太っても痩せても着こなすことが出来る日本の着物のように、建築の設計に、適度な余裕を持たせた柔軟性のある設計が、長い目で見て有効であると主張している。
建築や住宅は人が使用し、住まう以上、ニーズの変化に対応することが求められ、環境に対する関与(intervention)が起こる。建物と人との相互関係が、時間の経過とともに、どのような変化を見せるのかを分析することにより、建築の本質が見えてくるのではないかと思い、この本をまとめた。本書が集合住宅のリノベーションや、建築のコンバージョン(用途変更)、公共建築の再編などの、現代社会の課題を数多く取り上げているのは、伝統建築や現代建築の調査を通して見出した建築と時間の関係性を、これからの社会が抱える課題の解決に生かそうという姿勢が背景にある。COVID-19後の先が読めない時代を生き抜く都市や建築のあるべき姿を一言で表現するため、本書のタイトルを「しなやかな建築」としている。 |
時と共に変化する建築
使い続ける技術と文化
2014年、ユニブック
はじめに 人口減少、少子高齢社会の建築・まちづくり
第1章 時と共に変化する建築
第2章 都市空間の秩序の持続性
第3章 公共建築ストックの戦略的マネジメント
第4章 コンバージョン 使い続ける技術と文化
第5章 団地再生 EUの先進事例
第6章 集合住宅のインフィル改修
第7章 オープンビルディング 近代建築に替わるもの
第8章 建築社会システムの再編にむけて
あとがき
2016年都市住宅学会賞著作賞 受賞
【選考理由】
人口減少社会時代における都市の継承と再編の課題に対して、まちづくりや建築物の在り方を体系的に理解することが求められている。本書では、建築の長寿命化を明確に主張しオープンビルディングの理論をベースに、国内外の豊富な具体的な事例を紹介、その手法を体系化することによって、実務者はもとより初学者にもその具体的な方法を理解させるとともに、使い続ける技術と文化を実現するための着実な建築社会システムの再構築にも言及している。都市住宅学上、高い啓蒙性とともに今後求められる政策課題を明らかにしている。
以上の理由により、都市住宅学会著作賞に相応しいと評価される。 |
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改訂版 図説 建築構法
共著、2020年
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Loose-Fit Architecture: Designing Buildings for Change AD
2017年、Wiley、共著(John Habraken、Stewart Brand 他)
ISBN: 978-1-119-15264-4
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都市住宅学 第98号 2017年夏
特集企画編集 近年の大震災における仮設住宅の教訓と今後の課題
巻頭言(企画の趣旨)
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中国安徽省南部の伝統集落と古民居
2019年3月、ユニブック
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インド ラジャスタン州の城郭都市とクンダ
2016年10月、ユニブック
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安徽省黄山の古民家群 宏村・呈坎
2016年2月、ユニブック
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ブータンの城塞建築ゾンと伝統住居
2015年2月、ユニブック
カルパチア山脈の木造教会と校倉民家
2015年2月、ユニブック |
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公共施設の再編
計画と実践の手引き
共著、2015年2月、森北出版株式会社 |
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集合住宅のインフィル改修
~インテリアの新技術~
共著、2014年、井上書院 |
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日本建築学会叢書
「市民と専門家が協働する成熟社会の建築・まちづくり」
共著、2014年 |
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マンションストック再生技術
共著、2013年、テツアドー出版 |
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日本建築学会叢書1
都市建築の発展と制御シリーズⅠ「都市建築のビジョン」
共著、2006年
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日本建築学会叢書3
都市建築の発展と制御シリーズⅢ「都市建築のかたち」
共著、2007年
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オープンビルディングと都市デザイン
-新たな可能性-
2004年、丸善
1.ハブラーケン先生と内田祥哉先生の対談
2.ハブラーケン先生と巽和夫先生の対談
3.ハブラーケン先生に学ぶ 巽和夫
4.Making Urban Fabric Fine Grained
5.Study the field
6.Thematic Design course |
コンバージョンが都市を再生する、地域を変える
海外での実績と日本での可能性
共著、2004年、日刊建設通信新聞社
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コンバージョンによる都市再生
2002年、共著、日刊建設通信新聞社
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団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
共著、2006年6月、水曜社
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団地再生まちづくり 2
よみがえるコミュニティと住環境
共著、2009年6月、水曜社
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団地再生まちづくり 3
団地再生・まちづくりプロジェクトの本質
共著、2012年6月、水曜社
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団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり
共著、2015年9月、水曜社
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団地再生のすすめ
エコ団地をつくるオープンビルディング
共著、2002年、マルモ出版
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現代集合住宅のリ・デザイン
事例で読む「ひと・時間・空間」の計画
共著、日本建築学会編、彰国社、2010年9月
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事例で読む現代集合住宅のデザイン
共著、日本建築学会編、彰国社、2004年9月
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多目的ホールの計画・建設
編著、2002年、日刊建設通信新聞社
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複合文化施設の計画・建設
編著、2000年、日刊建設通信新聞社
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サステイナブル社会の建築
オープンビルディング
共著・共訳、1987年、日刊建設通信新聞社
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